桜花抄
桜の花びらが舞い散る速度は1秒間に5cm。
ゆっくり ゆっくり それでも確実に
花びらはいつか地上へと辿り着く。
小学校の頃、同じ団地に住む佳奈ちゃんが
幼馴染の男の子の転校に泣き崩れました。
男の子を乗せた車が見えなくなったその瞬間、佳奈ちゃんは堪えていた涙を止め処なく流していました。
それを見て、なんだか美しいなと思ってしまいました。
それで全てが終わりというわけではないのに、彼女は2度と会えないと思ったのでしょう。
中学3年の頃、片想いをしていた子が隣町に引越しをしました。
自転車で行けば15分。
学区外でした。
どうにか会えないものかと考えていました。
授業中も上の空で、ぼーっとその子の事だけを考えていました。
ホームルームの時、窓の外では2羽の鳥が空を飛び回っていました。
その刹那、思いつきました。
突然、椅子を倒して立ち上がったボクに、何事かと他の生徒や先生は白い目で見ていました。
終礼のチャイムが鳴るのと同時に廊下に出て全速力で家路へと向かいました。
家に帰って鞄をベットに投げ捨てて、自転車の鍵を握り、靴の踵を踏みながら階段を3段跳びで駆け下りました。
ボクの活動範囲を超えて、初めて通るマンションの敷地内を通り過ぎ、川沿いを走り、これまた初めて見る公園に辿り着きました。
さっきまで誰かいたのか、誰も乗っていないブランコが僅かに揺れていました。
制服が汗ばんでいました。
息がなかなか整いません。
何の宛てもなく、ただただベンチに座って、たまに公園の前を通る他校と思われる生徒が通る度に顔を上げては溜息をついていました。
2.3時間が過ぎました。
隣町でも17時を知らせるチャイムのは同じ音で、ここが知らない街だというアウェイ感を払拭してくれました。
そんな時でした。
背の高い、あの子が現れました。
…
…
あの日から僕らは手紙のやりとりを始めました。
同い年なのに大人びた文字と内容の彼女に対して、思った事を真っ直ぐ書く自分は、なんだか手紙の中でも不釣り合いでした。
途中でどちらかが出しそびれて、2年続いた文通は終わりを迎え、その頃にはボクの中で1つ答えが出ていました。
最期にしよう。
日付にして2000日。
ボクが彼女を好きでいた時間。
19歳の秋でした。
2人でご飯を食べて雑談し、ボクの中で何かが音を立てて崩れ、彼女の事をそれ以来思い出す事はありませんでした。
何故って?
ボクが止まっていた時間、彼女は進んでいたんです。
それがどれだけゆっくりであっても、長い時間をかけてとても追いつきそうにないくらいの距離がボクらにはあって。
そして、それを縮めるだけの努力もせず、どこか他人事のように諦めて。
これを見る度に、ボクはあの日の自分と彼女を思い出してしまうのです。
おわり